PCB調達ガイド

EMC/EMI対策の基礎:
設計段階で押さえるポイント

完成後の対策は高コストで根本解決できないことも。グラウンド設計・電源・高速信号・シールド・フィルタの5つの対策手法、EMC試験の流れ、トラブルシューティング手順を実務視点で解説します。

EMC / EMI / グラウンド設計 約8分で読めます 設計対策5手法・試験項目付き

この記事では、EMCとEMIの概念・規制(POINT 01)、EMI発生源の種類とループ面積の概念(POINT 02)、設計段階での5つのEMC対策(POINT 03)、EMC試験の流れと試験項目(POINT 04)、トラブルシューティング4ステップ(POINT 05)を解説します。

POINT 01

EMCとEMIの概念:2つの側面と規制要件

EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)は、電子機器が周囲の電磁環境と両立して正常に動作する能力全体を指します。EMCには2つの側面があります。

📡 Emission(エミッション)
EMI(電磁妨害)の放出を抑制する
機器から空中または電源ラインに放出される電磁波・ノイズを規定値以下に抑える能力。スイッチング電源・クロック信号などが主な放出源。他の機器や通信に妨害を与えないことが求められる。

放射エミッション(空中への放射)と伝導エミッション(電源ラインへの伝播)の2種類がある。
🛡️ Immunity(イミュニティ)
外部の電磁妨害に対する耐性
外部からの電磁波・サージ・静電気・バーストノイズなどに対して、正常動作を維持できる能力。スマートフォン・産業機器・車載機器では特に高いイミュニティが求められる。

ESD試験・バーストノイズ試験・サージ試験・放射イミュニティ試験などで評価される。

市場投入に必要な主要EMC規制

FCC Part 15(米国) EN 55032 / EN 55035(欧州・CE) CISPR 32(国際) VCCI(日本) KCC(韓国) SRRC(中国) IATF 16949 + CISPR 25(車載)
Class A vs. Class B: FCC Part 15およびCISPR規格では、産業用(Class A:制限が緩い)と家庭用・民生品(Class B:制限が厳しい)に区分されています。家庭内で使用される可能性がある製品はClass Bを満たす必要があります。設計段階でどちらを目指すかを確定しておくことが重要です。
POINT 02

EMI発生源と「ループ面積」の基本概念

EMIは回路内のさまざまな箇所から発生します。放射強度はループ面積 × 電流変化率 × 周波数²に比例するため、ループ面積を最小化することがEMC対策の核心です。

⚡
スイッチング電源(DC-DC・ACアダプタ)
最大のEMI源。スイッチング周波数とその高調波が広範囲に放射される。電源ラインへの伝導EMIも大きい。
⏱️
クロック信号・高速デジタル信号
高調波成分を含む矩形波が輻射の主要源。立ち上がり・立ち下がりが速いほど高周波成分が増える。
🔄
モーター駆動回路
PWM制御によるスイッチングノイズと、ブラシ付きモーターの場合はブラシからの火花放電ノイズが発生。
📶
無線通信回路
Wi-Fi・Bluetooth・LTEなどの無線モジュールは意図的な電波放射を行う。スプリアス放射の管理が必要。
📏
長い配線・アンテナ的なパターン
波長の1/4以上の長い配線は実効的なアンテナとして機能し、ノイズを効率よく放射する。クロック信号の配線長に注意。
🔌
I/O接続ライン(USB・LAN・HDMI等)
外部接続ラインは機器外部に伸びるため、実質的なアンテナになりやすい。コモンモードノイズの伝播経路になる。
ループ面積の最小化が最重要: 電流が流れる閉ループ(往路と復路で囲まれる面積)が大きいほど放射が増えます。スイッチング電源の電流ループ・クロック信号のリターン経路ループを基板レイアウトで最小化することが、根本的なEMC対策です。多層PCBでのグラウンドプレーンの活用が最も効果的な手段の一つです。
POINT 03

設計段階での5つのEMC対策

EMC対策は設計段階で行うほどコスト効率が高く、完成後の後付け対策は限界があります。以下の5手法を組み合わせて対策します。

対策 01
グラウンド設計:最重要のEMC対策
良好なグラウンドはEMC対策の最も重要な要素です。

ベタグラウンド(グラウンドプレーン)を可能な限り連続的に設けます。グラウンドが分断されると、リターン電流の経路が長くなりループ面積が大きくなって放射が増えます。多層PCBの場合、2層目(信号層の直下)または専用グラウンド層として連続したグラウンドプレーンを設けることが基本です。

複数の電源系統やアナログ・デジタル混在回路では、グラウンドの分離とシングルポイントグラウンド接続が重要です。アナロググラウンドとデジタルグラウンドを分離し、1点でのみ接続することでデジタルノイズのアナログ系への混入を防ぎます。
💡 実務ポイント:グラウンドプレーンに不必要なスリットや切り欠きを入れない。スルーホールがプレーンを分断する場合は、ビア周囲のクリアランスを最小限にとどめる。
対策 02
電源設計:スイッチングノイズの低減
スイッチング電源は最大のEMI源であり、設計段階での対策が特に重要です。

入力・出力フィルタの最適化、シールド付きインダクタの使用、コア材料の選定(高周波対応フェライト)が基本です。スイッチングループ(SW端子→インダクタ→出力コンデンサ→GND→スイッチ)の面積を基板レイアウトで最小化します。

バイパスコンデンサ(デカップリングコンデンサ)は各ICの電源ピンの直近(数mm以内)に配置し、コンデンサのGND側ビアを直下または隣接させてグラウンドへの最短ループを確保します。複数の容量値(100nF + 10nF等)を組み合わせて広帯域をカバーします。
💡 実務ポイント:バイパスコンデンサをICから遠い場所に配置するとインダクタンスが増えてフィルタ効果が激減する。「とりあえず端に置く」は厳禁。
対策 03
高速信号設計:輻射ノイズの低減
クロックや高速デジタル信号は輻射ノイズの主要源です。

信号ラインを短くすることが最も効果的です。必要以上に速い立ち上がり時間は高調波成分を増やすため、直列終端抵抗(22〜100Ω)で立ち上がり時間を制御します。差動信号(LVDS・USB・HDMI等)は、コモンモードノイズを打ち消す効果があり、積極的に活用します。

高速信号ラインの直下にグラウンドプレーンを確保することで、信号とリターン電流の距離を最小化しループ面積を小さくします。高速信号と低速信号、アナログ信号の物理的な分離も有効です。
💡 実務ポイント:クロック信号のルーティングは最短・最直線を原則とし、できるだけ基板の端や長辺と平行にしない。クロック信号がバイアを経由する場合は近傍にGNDビアを設ける。
対策 04
シールド:放射源の囲い込みと外部ノイズの遮断
筐体や基板の一部を導電材でシールドすることで、放射EMIの抑制と外部ノイズへの耐性を両立できます。

シールド効果は隙間と開口部の設計に強く依存します。隙間の最大寸法が波長の1/20以下になるように設計することが原則です。開口部が必要な場合(通気口・コネクタ等)は、ハニカム構造・スロット配列・導電性ガスケットで対策します。

基板上のシールド缶は、周囲にソルダーパッドを設け、全周囲で連続的にはんだ付けしてグラウンドに接続します。シールド缶の接触点が少ないと高周波での遮蔽効果が低下します。
💡 実務ポイント:金属筐体は全体をシールドとして機能させられるが、プラスチック筐体は導電塗装または内部金属シールドが必要。プラスチック筐体の場合は設計初期からシールド面積を確保する。
対策 05
フィルタ:EMC対策部品の効果的な活用
EMC対策専用のフィルタ部品をI/Oラインや電源ラインに配置します。

フェライトビーズは電源ラインや単線のI/Oラインに直列挿入し、高周波のノーマルモードノイズを減衰させます。ターゲット周波数でのインピーダンスを部品のスペックシートで確認して選定します(100MHz帯で100Ω以上が目安)。

コモンモードチョークはUSB・Ethernet・HDMI等の差動信号ペアまたは2線電源に挿入し、コモンモードノイズを低減します。差動信号モードには影響しないため信号品質を損ないません。

フィルタはポートの入口直近(コネクタの近く)に配置することで効果が最大化されます。フィルタの後ろ側にノイズ源が入ると効果が相殺されます。
💡 実務ポイント:フェライトビーズは直流電流が大きい電源ラインでは定格電流と直流バイアス特性を確認する。大電流でインピーダンスが激減する製品がある。
POINT 04

EMC試験の流れと主要試験項目

試験の2段階フロー

STEP 01
プリスキャン(事前測定)
開発の早い段階で社内または近隣の試験施設で簡易的なEMC測定を行う。問題を設計段階で早期発見・修正するのが目的。認証試験での不合格を防ぎコスト・期間を節約する最重要ステップ。
→
STEP 02
認証試験(正式試験)
製品完成後に認定試験所(認定EMCラボ)で正式なEMC試験を実施。FCC・CEなどの認証取得には認定試験所での試験が必須。プリスキャンで問題を解消した後に臨むのが原則。

主要試験項目一覧

試験名 種別 内容 主な規格
放射エミッション エミッション 機器から空中に放射される電磁波(30MHz〜1GHz以上)を電波暗室で測定 CISPR 32 / FCC Part 15
伝導エミッション エミッション 電源ラインに伝わる高周波ノイズ(150kHz〜30MHz)をLISNで測定 CISPR 32 / FCC Part 15
放射イミュニティ イミュニティ 外部からの電磁波を照射し、機器の動作異常がないかを確認 IEC 61000-4-3
ESD試験 イミュニティ 静電気放電(接触放電±2〜8kV・気中放電±2〜15kV)に対する耐性試験 IEC 61000-4-2
EFT/バーストノイズ イミュニティ 電源ラインの瞬間的なノイズバースト(電気的高速過渡現象)に対する耐性 IEC 61000-4-4
サージ試験 イミュニティ 雷サージや大電流スイッチング(1〜4kV/0.5〜2kA)に対する耐性試験 IEC 61000-4-5
伝導イミュニティ イミュニティ 電源・I/Oラインへの高周波注入(150kHz〜80MHz)に対する耐性 IEC 61000-4-6
⚠ プリスキャンを省略しない: 認定試験所での正式試験は1回で数十〜数百万円のコストがかかります。プリスキャンを省略して試験本番で不合格になった場合、設計修正・部品変更・再試験で費用と時間が大幅に増加します。開発スケジュールにプリスキャンの時間を必ず組み込んでください。特にスイッチング電源や無線モジュールを含む製品は早期のプリスキャンが不可欠です。
POINT 05

EMC試験不合格時のトラブルシューティング4ステップ

EMC試験で不合格になった場合は、以下の4ステップで体系的に対処します。手順を飛ばして思い込みで対策すると、効果のない対策に時間とコストを費やすことになります。

01
不合格周波数の特定
スペクトラムアナライザーの測定結果から不合格の周波数を特定します。その周波数から発生源の推定が可能です。例えば「200MHz付近の超過」であれば「スイッチング周波数20MHzの10倍高調波」「200MHzクロックの基本波」などと関連付けて考えます。複数の周波数で超過している場合は、最も超過量が大きいものから順に対処します。
02
EMI発生源の特定
近接磁界プローブとスペクトラムアナライザーを使い、回路基板上のどの部位からノイズが放射されているかを特定します。プローブを基板の各部分に近づけながらスキャンし、信号強度が高い箇所が発生源の候補です。疑わしい回路(電源・クロック発生部等)の電源を順番に切ることで発生源を絞り込むこともできます。
03
段階的な対策の実施
最も効果が大きいと推定される対策から順番に試します。一般的な優先順位は①フィルタ追加(フェライトビーズ・コモンモードチョーク)→②シールド強化(仮のアルミテープシールドで確認)→③グラウンド改善(グラウンドの接続点追加)→④レイアウト変更(次の基板改訂で対応)です。一度に複数の対策を変えると、どれが効いたかわからなくなるため、1つずつ変更して確認します。
04
再測定と全体評価
対策後に必ず再測定して効果を確認します。重要なのは「一つの周波数を抑えると別の周波数で問題が出ることがある」という点です。フィルタ追加で特定周波数は改善しても、共振点が変化して別の問題が生じる場合があります。必ず測定範囲全体を評価し、全体的な改善を確認してから次のステップに進みます。対策の結果は記録し、知見として蓄積します。
設計段階からEMCを意識することが最大のコスト削減: EMC問題への対応コストは、設計段階で1とすると、試作後は10倍、量産後は100倍以上になると言われています。グラウンドプレーンの確保・バイパスコンデンサの適切な配置・スイッチングループ面積の最小化は、基板設計の最初から意識するだけでほぼコストゼロで実現できます。EMCは「後から追加するもの」ではなく「設計思想に最初から組み込むもの」です。

まとめ

EMC/EMI対策は、設計段階でのグラウンド設計・電源設計・高速信号設計の適切な実施と、必要に応じたシールド・フィルタの追加で大半が達成できます。完成後の後付け対策はコスト効率が悪いため、開発初期からEMCを意識した設計を行い、プリスキャンで問題を早期発見して設計段階で修正することが、効率的な認証取得と製品品質確保の鍵です。バイパスコンデンサの適切な配置とグラウンドプレーンの確保は、ゼロコストで実現できる最も重要な対策です。

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