PCB調達ガイド

機能安全(ISO 26262・IEC 61508)
対応部品調達ガイド

SIL/ASILの基礎から主要7規格の使い分け、機能安全対応MCU・電源IC・センサーの選定、Safety Manual・FMEDAの活用、厳密なバージョン管理と長期供給確保まで解説します。

ISO 26262 / IEC 61508 約8分で読めます ASIL / SIL解説付き

この記事では、機能安全の基本概念とSIL/ASIL(POINT 01)、主要7規格の概要(POINT 02)、6ステップの開発プロセス(POINT 03)、機能安全対応部品の種類と主要MCUメーカー(POINT 04)、調達実務の6項目(POINT 05)を順に解説します。

POINT 01

機能安全とは何か:「故障しない」から「故障しても安全」へ

機能安全(Functional Safety)は、電子システムに発生する故障を想定し、それに対して安全状態を維持するための設計・評価・認証のアプローチです。自動車・産業機器・医療機器・鉄道・航空宇宙など、電子システムの故障が人命や環境に重大な影響を及ぼす分野で必須とされます。

❌ 従来のアプローチ(不十分)
「故障しない部品・システムを作る」

故障確率をゼロにすることは不可能。突発的な故障、製造バラツキ、経年劣化は必ず発生する。

✓ 機能安全のアプローチ
「故障しても安全状態を維持する」

故障が起きることを前提に、フェイルセーフ・冗長化・自己診断により安全状態へ移行する仕組みを設計する。

SIL と ASIL:安全度水準の指標

レベル 規格 故障確率目標(PFH) 代表的な適用例
SIL 1 / ASIL A IEC 61508 / ISO 26262 10⁻⁵〜10⁻⁶/h 間接安全影響。軽微な制御系
SIL 2 / ASIL B IEC 61508 / ISO 26262 10⁻⁶〜10⁻⁷/h ブレーキ補助系・一般的な安全機能
SIL 3 / ASIL C IEC 61508 / ISO 26262 10⁻⁷〜10⁻⁸/h ESC・パワーステアリング・ADAS機能
SIL 4 / ASIL D IEC 61508 / ISO 26262 10⁻⁸〜10⁻⁹/h エアバッグ制御・自動緊急ブレーキ(AEB)・自動運転
QM(Quality Management)について:ISO 26262では、安全リスクが最も低い機能を「QM」(品質管理で十分)と分類します。QMはASIL要件を課さず、一般的な品質管理で対応できます。ASIL AからDになるにつれて、設計・検証・部品選定の要求レベルが段階的に高くなります。
POINT 02

主要な機能安全規格 7種

機能安全規格はIEC 61508を基盤として、各産業分野向けに派生した規格体系を持ちます。自社の製品がどの規格に対応すべきかを把握することが調達戦略の第一歩です。

IEC 61508
E/E/PE安全関連系の機能安全
基本規格(全産業の基礎)

電気・電子・プログラマブル電子の安全関連系に関する基本規格。後述する全業界規格の基盤となる。SIL 1〜4で安全度水準を定義。

ISO 26262
道路車両の機能安全
自動車向け

IEC 61508を自動車向けに特化。ASIL A〜D(Dが最高)で評価。EV・ADAS・自動運転技術の拡大で重要性が急速に増大している。HARA(ハザード分析)が起点。

IEC 61511
プロセス産業の機能安全
石油・化学・発電

石油・天然ガス・化学・発電プラント向け。緊急停止システム(ESD)、安全計装システム(SIS)に適用。SILで安全水準を評価する。

IEC 62061
産業機械の電気安全
ロボット・工作機械

産業機械の電気・電子・プログラマブル電子制御システム向け。ロボット・工作機械・自動化設備に適用。SIL CL(1〜3)で評価。

ISO 13849
機械の安全関連制御部
PL(Performance Level)

機械安全の制御システム部分に関する規格。IEC 62061と並行適用されることが多い。PL a〜e(eが最高)で安全レベルを評価する。

ISO 14971
医療機器のリスクマネジメント
医療機器全般

医療機器の設計・開発・製造・市販後の全フェーズにわたるリスク管理を規定。IEC 62304(医療ソフトウェア)と組み合わせて適用される。

DO-254 / DO-178
航空機器の保証レベル
DAL A〜E

DO-254:航空機搭載電子ハードウェアの設計保証。DO-178:ソフトウェア考慮事項。DAL(Design Assurance Level)A〜Eで評価。FAA・EASA認証に必要。

適用規格の決め方:製品の使用分野が決め手です。車載→ISO 26262、産業機械→IEC 62061 or ISO 13849、プロセス産業→IEC 61511、医療機器→ISO 14971が起点。複数分野にまたがる製品は複数規格への同時対応が必要になる場合があります。
POINT 03

機能安全の開発プロセス 6ステップ

機能安全開発はV字モデルに基づく構造化されたプロセスで進みます。調達担当者は特に ③設計と実装 と ⑥運用とフィードバック に部品調達の視点で関与します。

1
ハザード分析とリスク評価(HARA)
システムが引き起こす可能性のあるハザードを洗い出し、重大性(Severity)・発生確率(Exposure)・制御可能性(Controllability)から必要な安全レベル(SIL/ASIL)を決定する。この段階でどの部品にどのASILが要求されるかが確定する。
調達への影響:部品のASIL要件が決まる
2
安全要求仕様(Safety Requirements Specification)
決定された安全レベルに基づき、システムが満たすべき安全要求を機能要求と技術要求に分けて明文化する。どのような故障モードにどう対応するかを具体的に記述する。
3
設計と実装
安全要求を満たす設計を実施する。主な安全技術として、冗長化(デュアルチャンネル)・フェイルセーフ(安全状態への移行)・ウォッチドッグ(異常検出)・ロックステップ(デュアルコアで相互監視)・ECC(メモリエラー訂正)・CRCチェックなどを組み合わせる。
調達への影響:機能安全対応部品の選定
4
検証と妥当性確認(V&V)
設計が安全要求を満たしているかを検証(Verification)し、システム全体が意図した安全機能を発揮するかを妥当性確認(Validation)する。単体テスト・統合テスト・システムテストの各段階で実施する。
5
第三者機関による認証
TÜV(TÜV SÜD・TÜV Rheinland)、SGS、UL、VDE、BSIなどの認証機関による独立評価と認証を取得する。認証取得に向けた証跡(安全計画・設計書・テスト記録)の整備が必要。
調達への影響:認証済み部品はシステム認証を効率化
6
運用とフィードバック
市場投入後もインシデント情報(フィールドデータ)を収集・分析し、必要に応じて設計変更・部品変更を行う。部品のPCN(製品変更通知)・EOL通知は即座に調達部門へ連携し、再評価フローを起動する。
調達への影響:PCN・EOL対応が安全性に直結
POINT 04

機能安全対応部品の種類と主要MCUメーカー

機能安全システムに必要な部品カテゴリー

🖥️
機能安全対応 MCU

デュアルコア ロックステップ構成(両コアで同一演算を実行し結果を比較)、内蔵メモリECC、CRCユニット、ウォッチドッグタイマー、セルフテスト機能(BIST)、故障検出と安全状態への移行機能、Safety Manual・FMEDA提供が必須要件。ASIL DはロックステップMCUが事実上必須。

⚡
機能安全対応 電源IC

過電圧・過電流・過温度の検出と保護、電源シーケンシング管理、エラーフラグ出力、ウォッチドッグ機能内蔵品も存在する。電源の安全な立ち上げ・立ち下げが機能安全の基盤となるため、PMICの選定は重要。

📡
機能安全対応 センサー

AEC-Q200対応に加えて機能安全要件を満たす製品が提供されている。慣性センサー(加速度・ジャイロ)、圧力センサー、温度センサー、位置センサーで機能安全対応品が存在する。自己診断機能付き製品を優先的に選定する。

📶
機能安全対応 通信IC

CAN FD(ISO 11898-1)、Ethernet(100BASE-T1/1000BASE-T1)などの機能安全対応通信IC。通信経路の安全性確保(エラー検出・フレーム認証・タイムアウト検出)が重要。TJA11xx系(NXP)などが代表例。

主要な機能安全対応 MCU メーカー

メーカー 代表シリーズ 対応 ASIL / SIL 特徴・強み
NXP S32K、MPC5xxx ASIL D S32Kは車載中堅MCUの定番。CAN FD・Ethernet搭載。Safety Manualの品質が高く日本でも採用多数。
Infineon AURIX TC3xx / TC4xx ASIL D / SIL 3 欧州車載の事実上の標準。3コアロックステップ対応品も存在。車載・産業・航空宇宙に広く採用。
Renesas RH850/F1x, /U2x ASIL D 日系自動車メーカーとの長年の実績。ドメインコントローラ向けU2xはAI処理+安全機能を統合。
STMicro SPC5、Stellar ASIL D コスト競争力が高い。StellarシリーズはゾーンECU・ゲートウェイ向けに設計されたマルチコアアーキテクチャ。
Texas Instruments TMS570、Hercules ASIL D / SIL 3 産業安全・医療・航空宇宙にも強い。TMS570は16/32ビットアーキテクチャでCortex-R5Fデュアルロックステップ搭載。
Microchip PIC32C、SAM系 ASIL B / SIL 2 産業機器・医療機器向けで実績。豊富なエコシステムと開発ツールサポート。
⚠ シリコンリビジョンに注意:機能安全対応MCUのシリコンリビジョンが変わると、安全認証の対象が変わる場合があります。調達時には必ず認証を取得したリビジョンを指定し、代替品・後継品への移行時は再評価が必要かどうかを確認してください。
POINT 05

調達実務:通常部品との6つの違い

機能安全対応部品の調達は、通常の電子部品調達とは大きく異なります。以下の6項目は機能安全調達固有の要件で、見落とすとシステム認証の取り直しや製品リコールにつながるリスクがあります。

ITEM 01
Safety Manual の入手と管理
機能安全対応を謳う部品には、メーカーから Safety Manual(セーフティマニュアル)が提供されます。この文書には、部品の安全前提条件(Safety Assumptions)、使用制約、必要な外部安全措置、検証要件などが記述されており、システムの安全設計と認証の基礎資料となります。
調達前に必ずSafety Manualの取得可否とバージョンを確認し、文書管理システムで版管理を行ってください。NDA(機密保持契約)の締結が必要な場合もあります。
ITEM 02
FMEDA(故障モード・影響・診断分析)の活用
FMEDA(Failure Modes, Effects, and Diagnostic Analysis)は、部品の全故障モードと故障率(λ)、各故障に対する診断カバレッジを定量的に評価した文書です。メーカーから提供されるFMEDAを基に、システム全体の
・SPF(Single Point Fault:単一点故障)指標
・LFF(Latent Fault Fraction:潜在故障割合)
・PMHF(Probabilistic Metric of Hw Failures)
などの安全指標を計算します。認証済み部品のFMEDAを活用することで、自社での解析コストを大幅に削減できます。
ITEM 03
認証状況の確認(TÜV等)
部品自体が機能安全認証(TÜV SÜD・TÜV Rheinland・VDE等)を取得しているかを確認します。認証を取得した部品を使用することで、システム認証の工数と費用を削減できます。
確認事項:認証機関名・認証番号・認証スコープ(対応ASIL/SIL)・認証日とバリディティ(有効期間)・シリコンリビジョンとの対応関係。認証書のコピーを保管し、定期的に有効性を確認してください。
ITEM 04
厳密なバージョン管理
機能安全対応部品のシリコンリビジョン・ファームウェアバージョン・Safety Manualバージョンは、調達・製造・市場後の全ライフサイクルで厳密に管理する必要があります。バージョンが変わると、安全評価の再実施が必要になる場合があります。
実務上のポイント:
  • 発注書にシリコンリビジョンを明記する(型番だけでなく)
  • 受入検査でリビジョンの実物確認を行う
  • サプライヤーにPCN(製品変更通知)の事前連絡を義務付ける
  • バージョン変更が安全認証に影響するかを変更都度確認する
ITEM 05
長期供給の確保(10〜20年)
機能安全システムを組み込んだ車載ECU・産業機器・医療機器は、製品寿命が10〜20年に及ぶケースが多いです。民生品のEOLサイクル(数年)とは桁違いの長期供給が必要です。
調達戦略:
  • メーカーの長期供給プログラム(LSOP)・製品保証期間を確認する
  • 産業用グレード品を優先的に選定する
  • EOL発表から最終購入(LTO)までのリードタイムを確認し計画する
  • 後継品や互換品への移行計画を設計段階から立案する
ITEM 06
サプライヤー選定と定期監査
機能安全対応部品のサプライヤーに求める評価基準は、通常部品より高くなります。また調達後の定期的な監査も不可欠です。
選定基準:
  • 機能安全対応部品の設計・認証実績(実例確認)
  • Safety Manual・FMEDAの品質と更新体制
  • 変更管理(PCN)の通知プロセスと事前連絡義務
  • 長期供給コミットメントの明文化
  • 技術サポート体制(FAEの品質・応答速度)
⚠ 機能安全部品のコストについて:機能安全対応部品は通常品より価格が高くなります。ただし、①認証済み部品使用によるシステム認証コスト削減、②Safety Manual・FMEDA活用による設計工数削減、③適切な設計による長期的な品質コスト削減、④リコール・製品事故リスクの低減を総合すると、トータルコストで有利になる場合が多いです。コスト削減のために機能安全要件を満たさない部品に切り替えることは、重大なリスクを生みます。

まとめ

機能安全対応部品の調達は、適用規格(ISO 26262/IEC 61508等)とSIL/ASILの確定、機能安全対応MCU・電源IC・センサーの選定、Safety ManualとFMEDAの入手と活用、シリコンリビジョン単位の厳密なバージョン管理、10〜20年を見据えた長期供給確保、定期的なサプライヤー監査という、通常の部品調達とは異なる6つの要素を確実に実行する必要があります。機能安全は設計・調達・製造・運用の全工程に組み込まれて初めて機能します。調達部門が機能安全の概念と要件を理解して関与することが、製品全体の安全性と認証取得の効率に直結します。

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